22:00/夜遊び(失敗)
 腹ごしらえも終わって、灯りの途絶る事無い新都へと足を運ぶ。
 夕刻前にあった一騒動からもどうにか逃げおおせて、すっかり夜遊びモードのランサーだった。

 が。

 何故か隣には、黒尽くめの白髪褐色肌の男が並んでいる、この現実。
 どういうこった、と口の中で反芻するランサーを横目に、断りも無く彼の手から、草臥れた煙草の
ボックスを奪うアーチャーの手つきはいっそ、手慣れ過ぎていて憎らしいほどだった。
 それを言及する余力も無いのか、溜息と共にボックスを奪い返して、ランサーも煙草を銜える。
 一足先にライターを使って先を焦がし、煙を吐いて、口を開いた。
「………なぁ、よー…」
「なんだね」
「…要するにアレか、暇なのか、お前」
 火のついていない煙草を銜え、その穂先を揺らす弓兵が、その言葉の後にようやく槍兵を見遣る。
 ハ、と鼻でせせら笑う表情を向けてその後、肩を竦める姿は相変わらずだ。
「君が思うほど暇ではないさ。こう見えて私は私で、非常に忙しい」
「……、お前が横に居る所為で、ナンパの予定も何もあったもんじゃねぇンだけど、俺」
「それは何より。冬木の街を徘徊する駄犬から、か弱い女性を護ると言う…私の務めが果たせている訳だからな」
「…テメェの多忙の理由はそれか…!」
 槍兵がそのまま勢いつけて食って掛かろうと声を荒げたところで、その口許から煙草を奪われる。
 何しやがる、と告げた口に差し出されたのは、まだ火をつけてもいないまま、弓兵の唇に挟まれていた真新しい煙草。
 ますます怪訝そうな顔になった彼を他所に、そ知らぬ顔をして紫煙を燻らす男は、非常に満足そうな顔をしていた。
「やはりどうせなら、君から貰う方が美味いな」
 お礼に火も分けようか、と殊更に笑顔を爽やかにさせて、穂先を揺らしている弓兵に、黙って首を横に振る。
 要するに彼は怒っているのだろう。何に対してかは知らないが。
 何となく、道行くカップルの視線が痛い気がしたランサーだったが、諦めたように息をついて、差し向けられた煙草の穂先を焦がした。



【1-3】時間に関する5つのお題/配布元:F お題配布所 F
拍手のお礼画面に置いた、第2弾企画です。槍さんのとある一日を追っかけてみました。

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