0:01/晩酌→就寝
「で」

 結局、今日もこいつがここに居る訳か。
 言葉の外に有り有りと、そんな雰囲気を染み出させて槍兵は息をつく。
 新都から引き上げる際に、やっぱりなし崩しにコペンハーゲンに立ち寄って、図体のでかいの二人で袋を抱えて帰宅。
そんなところだった。
 しかも珍しく、自分から酒を買い込んでいた弓兵は、日付変更線を跨ぐ前に、アルコールに大敗を喫して鮮やかにダウン。
 すかー、と平穏な寝息まで立てて、ローテーブルの天板に突っ伏している。
 眠気に撃墜される直前までランサーの手癖の悪さを指摘し、延々説教していた名残か、寝息が平穏なくせに、眉間の皺は刻まれたままだ。
「……ラン、サー…」
 眠たげな声に呼ばれ、片付けをしている最中にそちらへ顔を向ける。
 起きたのか、と呟いて様子を窺っていたが、相変わらずアーチャーは眠りこけたままだった。
 普段は後ろにきっちり流している前髪が数筋、褐色の額に落ちていて、妙な幼さを覗かせる。
 傍らに膝をついて寝顔を覗き込み、短く白い髪に手を伸ばした。硬い感触の髪をゆっくり、混ぜっ返す。
 それでも眠ったままの弓兵に思わず、眉を下げた笑みが零れる。
 いくら酒が入っているからと言って、ここまで無防備で良いものかどうか。
「ほら、起きろよアーチャー。こんなとこで寝てんな」
「……、…む…」
 常であればスイッチが切り替わったように開く瞼は、薄く開いたのみで、また閉じられる。
 挙句の果てに、半端に覚醒したせいか、それを厭って身動ぎまでしている有様。恐るべしアルコール。
 もう一度、起きろ、と背を揺すってみたけれど反応は変わらず。
 ただ白灰の睫毛が薄く揺らぐばかりで、槍兵は諦めの溜息をついた。
「しょうがねえな、全く」
 最近、この言葉をやけにアーチャーに向けて言っている気がする。
 しかも決まって笑み混じりだ。
 ふとそんな思いが頭を過ぎって、浮かべていた笑みを深くしてから、脱ぎ捨てたブルゾンを弓兵の肩に掛けてやる。
「俺が眠たくなったら、布団行くからな。それまでには起きろよ」
 傍らにしっかり腰を下ろし、身を寄せて天板の上に肘をつく。
 眠ったままのはずのアーチャーの眉間から、皺が解けている気がしたけれど、そこは気にしないことにして。
 硬い髪を緩やかに乱しながら。
 アーチャーの寝顔を肴にのんびりと、ランサーは彼の空け掛けのビールを口に運んだ。



【1-3】時間に関する5つのお題/配布元:F お題配布所 F
拍手のお礼画面に置いた、第2弾企画です。槍さんのとある一日を追っかけてみました。

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