15:30/岸壁
「あれ、ランサーさん。今日は大漁ですねー」
 溢れんばかりの鯖をバケツに満たし、定位置で釣りにいそしむ槍兵の背後。
 凛とした少年の声が、本日の大漁を称賛していた。
 珍しい事も有るものだと、言葉にはせず視線で語るように、背後に立つ金髪の少年を一瞥した槍兵は、数を数えるのも億劫になり始めた鯖から針を取り、バケツに放す。
「……今日は邪魔者もいねえし、海が穏やかなんでな。思った以上に釣れてる」
 再度針先に餌をつけて、釣り竿を撓らせる。
 そうなんですかー、邪魔者って誰なんです? …とか曇りない声で告げる少年の声が、ある種の確信に満ちていて、ランサーはまた肩を落とした。
 問い掛けには答えず、煙草を銜えて穂先を焦がす。潮風に混じる紫煙の香りに目を眇め、一服。早速打ち破られている気がする平穏に、何処と無く表情にも先ほどまでの冴えが無い。
「……ランサーさん、ランサーさんってば」
「…うるせえなあ、聞こえてるよ…」
 穏やかに岸壁を叩く波の音の合間。
 心なしかアタリまでなりを潜めてきた。
 吸っていた煙草まで短くなって、面白く無さそうに長くなった灰を睨むと、空缶に吸殻を捻じ込む。
 肺腑の中に残った煙を吐き出したところで空を見上げると、雲一つ無かったはずの空に、じわじわと暗雲が垂れ込めている。
 ……そう言えば、さっきまで騒いでいたギルガメッシュが唐突に静かだ。
 騒ぐのも飽きたか、などと一人ごちて、さっきまで少年がいた背後へ視線をやった瞬間。

「我の呼び掛けに耳を貸さぬとは何事か、狗め!」

 フフフフフ、と不穏な笑みと共に暗雲を背にした大きい人が、仁王立ちで此方を見ているのだった。



【1-3】時間に関する5つのお題/配布元:F お題配布所 F
拍手のお礼画面に置いた、第2弾企画です。槍さんのとある一日を追っかけてみました。

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