愛しき日々-01 |
「TRICK or TREAT!」 「ってオイ、それ一ヶ月以上前のネタだろうが。言うならそろそろ、『めりーくりすます』じゃねえの?」 言うだけ言って、飴玉の入った瓶を片手にやってきた小さい英雄王にツッコミを入れる。 あら、何て風に目をぱちくりさせてから、ほにゃっと笑う顔はこう、色々と無駄に可愛らしい。 ちょっと遊びに来てくださいよ、マスターも居ませんから。 なんて言われて、教会の居住区に顔を出したところで、ソファを勧められて暫し、寛ぎの態勢で奴を待つ。 席を勧めて早々、ちょっと待っててくださいね、と奥に引っ込んだと思ったら、顔を出した途端にこれだ。 信徒からの寄付か何かか、言峰の居た頃から有ったソファ──これまた無駄にクッションの利いた、けれど柔らかすぎないそいつに腰を下ろしている横に、突っ込みに笑って応えていた小さな王様が歩み寄って来る。 「さすがにランサーさんも、その辺りの時期ネタには細かくなって来ましたねー」 「まあな。……で、それは普通、立場的に逆だろうと思うんだが」 その呼びかけをする側が、ガッチリ菓子持っててどうすんだ。 なんて言ったらこれまたにっこり、…邪気が無さそうに見えて何かしら、含みを持った笑顔がこっちを向いた。 「じゃ、ランサーさんが言えば良いじゃないですか。ほら、僕はお菓子をこうして持っているんですから」 ね、と小首まで傾げて目を細める。瓶の中に入った飴玉が、硝子に当たって小さく鳴った。 子供にしか許されない仕草の数々は、ある種の緻密な計算でもって(多分)向けられているんだろう。 で、多分俺がここで断らないタイミングだって言うのも理解している英雄王は、瓶の蓋まで開けている。 更に膝の上に乗ってくるあたりは多分、間違いなく。 「わーかったよ、…『TRICK or TREAT』?」 顔を向けて、お決まりの問い掛け。 子供に話しかけるように僅かに背を丸めて、座っても埋まらない視線の高さを少しでも、近づける。 対するギルガメッシュ(小)は、俺の膝の上でことさらに満足そうに、笑みを浮かべた。 「じゃ、飴玉、あげちゃいます」 ビンの中を探った手が、飴玉を一粒手にとって差し出してくる。 餌付けされてる気分にならないでもないが、まあアイスを奢ってもらうぐらいの気安さは有る訳で。 イタダキマス、何て添えてから、差し出された飴を口に含んだ。 「───で」 「はい?」 邪気の無い笑顔が憎らしい。 ついでに言うと俺も、色々と失念し倒していたと言うか、なんつうか。 飴玉を口の中で溶かし終えた瞬間に、やってきた違和感の果てに迎えたこの現状に目眩を覚えつつ。 今や視線の高さを俺にあわせようとしてくる小さな英雄王を、射殺さんばかりに睨み据えた。 精一杯睨みつけているんだが、英雄王はニコニコと笑みを深くする一方だ。 ……チクショウ、笑ってんじゃねえ…!! ぎりぎりと歯噛みをしながら、声変わりまで済んでいない自分を今更思い知り、またダメージを受 けた。 随分と低くなってしまった視界が捉えた自分の腕は、それなりに鍛えては有るものの、幼く、細 い。 ギルガメッシュの重みを支えていたはずの足も、まあ重たいとは思わねえが、接触してる面積の激減っぷりに、それなりの重みが加わっているように、思う。 と言うかそれ以前に、服の中で身体が泳いでいるわけで。 半袖の筈のシャツの袖は肘近くまで有るし、襟ぐりはやたら広く感じるし。 何よりぴったりと肌に沿っていたはずの、レザーパンツのフィット感がもう欠片もねえ。 渋面になる一方の俺を見下ろすギルガメッシュは、あろうことか満面の笑顔。 挙句手まで伸ばして、くしゃくしゃと俺の髪を混ぜっ返す。 「ま、しょうがないですよー。買って来た飴がたまたま、色も形も、瓶の形状まで、僕が持っている薬と同じ形だったんですから。ね?」 「しょうがない、で済ますんじゃねえよこのうっかりキング! その顔は絶対嘘だろうがー!」 ぐわー、と鼻筋に皺を寄せて噛み付く勢いの威嚇も、奴にはちっとも通じなかった。 ■ Return ■ Next ■ |