この世界でふたりきり
 目を覚まして、瞼を起こす。
 真っ先に視界に飛び込んできたのは、褐色の肌の眠る顔。
 そいつの鼻先にキスを落としてから、身じろいで片腕を伸ばし、時計を手に取る。
 枕元の時計は、早朝の五時半を廻ったところだった。

 室内を満たすのは、窓の向こうで鳴くカラスの声と、時計の秒針の音。
 それから、奴の寝息と、俺の呼気。互いに身じろいでシーツが擦れる音。

 カーテンから薄く漏れる光にゆっくりと息をついて、時計は背を向ける形で枕元に置きなおす。


どうせ無理な注文なら、こう言う隙間に味わうのも悪くない。


 錯覚であっても、いや、錯覚だからこそ。
 望むべくも無い、願いかどうかさえ曖昧な物は、明け方の、しんとした空気に明け渡しておけば良い。
 どうせ直ぐに溶けて、無くなって。また目を覚ます頃には、忘れてしまうものだから。

 明け方独特の冷えた空気に少しの間でも出していた腕を冷やされて、相変わらず、眠ったままのアーチャーの傍に身を寄せた。



【5-6】二に関する5つのお題(その1)/配布元:F お題配布所 F
弓さん槍さんバカップル風味短文お題・その5。
オトメ回路ぶっとい答えですみません。お付き合い有難うございました!

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