6:05/起床
 目を開いた。
 塒の天井が視界に入る。そのまま、直ぐ傍に有る、明るくなり始めの窓を見る。
 窓越しの空には雲ひとつなく、そう遠くない場所に聳える木々は、枝葉を時折、小さく揺らす。
 見る限りでは風も心地よい程度のもので、このままの天気が維持されれば、まさに絶好の釣り日和。
「よし、起きるか」
 鼻歌交じりに上肢を起こそうとした矢先、ぐん、と後ろ髪を引かれて痛みに呻く。
 いで、と起き抜けのせいで少々掠れた悲鳴を上げてから、窓の反対方向───つまり、彼の髪を踏みつけてるんだか挟んでいるんだか、そんな元凶へ視線を向け、そこに飛び込んで来た現状に、睨むように眇めていた目を丸くする。
「…………」
 槍兵の長い髪を腕の下に敷いて、寝息を立てているのは褐色の肌の男。
 同衾していたらしい現状に数度の瞬きを挟み、一先ず重石になっている腕を退かそうと手首を掴んだところで唐突に、ぱち、と音でもしそうな鮮明さで弓兵の瞼が開いた。
「っ!」
「おはよう、ランサー」
 眠気の余韻を欠片も見せない、相変わらず愛想の無い声で向けられた挨拶は、驚きに少々うろたえ気味なランサーお構い無し、と言った調子。
 向けられた当人は、おう、とか、ああ、とか間の抜けた返答をしつつ、漸く解放された髪を擦りながら、上肢を起こす。
 室内に視線を巡らせた所で、食卓代わりのローテーブルの上に林立する、麦酒の空き缶が目に入った。
 そう言や、夕べは此処で飲んだんだったか…などとぼんやり、遅れて記憶を掘り起こしている事、数十秒。
「朝食はどうする。……とは言え、ろくな物が無さそうだな、君の部屋の冷蔵庫には」
 いつの間にか起き上がり、勝手知ったるなんとやら、で居並ぶ空き缶を片付けるアーチャーからの言葉に、つい数分前まで、爽やかな目覚めを満喫していたランサーの表情は、ますます景気悪くなっていくのだった。



【1-3】時間に関する5つのお題/配布元:F お題配布所 F
拍手のお礼画面に置いた、第2弾企画です。槍さんのとある一日を追っかけてみました。

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