夜に佇む影の中
 ごぽ、と。
 影より深い闇色の泥が、息をした。
 捕らえた事で湧き上がる『力』が酷く心地よくて、半ば恍惚と目を開く。

──ああ、ひとり、つかまえた。

 きっと彼にはとても辛い、この闇。ここに満たされた力は穢れそのもの。
 深い絶望と、あらゆる負の感情。満たされることの無い飢え。
 清廉なるものを幾度貪った所で、そのものになることも出来ない『私』の内側。

 彼は、とても眩しかった。
 きっと、取り込まれても染まることもなく、ここにあり続けるのだと思う。
 置かれた地に馴染むことも混じることも出来ず、けれどそこから離れることも出来ないまま。
 彼は、その苦痛を這わせながら、『私』の中にくべられた魔力の塊としてずっと、佇むことになるのだ。

 闇を弾くように駆ける彼に、それまで触れる機会は無かったけれど。
 捕まえたときに流れ込んできた記憶や魔力を、その『食感』を、とてもいとおしく思った。
 光を奪われ、絶望を叩きつけられて。それでも心を折ることなく、闇の汚泥を浴びたものの傍らに甘んじて。
 幾度、その穢れた魔力に侵されようとも、決してその汚濁に染まらぬ、磨り減ること無い強さが。

──あなた、あのひとににているわ。

 『私』の一番好きな、なりたかったあのひとに。
 だから、最初にこの魔力がくべられた事が、言いようの無い、昏い快楽となって、『私』を昂揚させた。

 『私』が満ちるまでずっと、閉じ込めておいてあげる。
 あなたに一番似つかわしくない、この世界に。



End



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