10-殺意


 爆ぜるもの。
 貫くもの。
 叩くもの。
 射抜くもの。

 己が彼に向けるそれと、彼が己に向けるそれは、共に熾烈、かつ純度は高く、けれどとても、似通わない。

 殺意と愛情を同時に向ける。
 それは果たしてどういった工程から得られる物だと言うのか、私には理解出来ようも無い。
 そもそも愛情と言う概念が既に、己の感覚から削げ落ちていた事に今更気付き、思わず苦く
笑った。

 いとしいものを見る目つきで笑う。
 その口が開かれて、言葉を紡ぐ。

「アーチャー、安心しな。俺がきっちり、殺してやるからな」

 まるで、愛を語るような真摯な物言い。
 そもそも何処に安心しろというのか。殺されてはたまらないというのに。
 こみ上げる笑みを止めようも無く、ふと吐き出した呼気に、その気配が混ざった。

「君に殺されるというのはどうにも、据わりが悪い。お断りだ」

 緩く頭を振って、答える。
 投影した夫婦剣をしっかりと握り締め、間合いのぎりぎりで赤い魔槍を構えた男を見据え、待つ。

 髪筋一つの揺らぎさえ見逃す事が無いように、鮮烈な蒼をしっかりと焼き付けた。



 殺意にすら奇妙な諦観が漂うのは多分、こいつの性質のようなものだ、と思う。
 その物が鈍いわけではない。
 むしろ過ぎるほど鋭いにも拘らず、少し揺らげば簡単に崩れるような、精巧かつ危ういバランスで成り立つ感情や意思の発露。

 笑う俺を見詰める表情は、いつものように眉間に皺を寄せた、無愛想にも映る顔つき。
 その顔が笑う。相変わらずの、屈託無いものの真逆にあるような、染むような笑顔。

 なら覚悟の程を聞かせてやろう。
 そうして紡いだ言葉に少しだけ、怪訝そうに眉を聳やかせるのも、いつもの癖。
 その表情が緩む折に見せる微かな安堵。

 まるでその言葉を待っていたとでも言うような、救いでも得たような双眸の撓みように、槍を握る手指が軋んだ。

 殺してくださいなんて言いそうな顔で、お断りを述べてんじゃねえよ、馬鹿が。
 そのくせ殺意が撓むどころかますます張り詰める、矛盾を抱え込んだ有様は、いっそらし過ぎるほど奴らしい。

「お断りなんて、つれないこと言うもんじゃないぜ?」
「そうかね? ───ならばそっくりそのままお返ししような、ランサー」

 俺以外の誰かに、殺させてなどやるものか。


 開始の合図は、同時に笑う声だった。


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