05-依存


 のし、と背後に重みが加わる。
 静かな読書を中断させる唐突な接触に、何ごとかと振り返りかかった顔が、同じく唐突にやってきた耳裏へのキスに阻まれた。
 鼻先を擦り付けて、くん、と膚の匂いを探る。その呼気に膚を擽られて、アーチャーの肩が跳ねた。
 それも構わず、ランサーはそこに口付け、舌を這わせる。
 性感を煽る愛撫というよりも、膚を慕うような動き。
 動物が施す親愛の表現に似ている、そんな感想を覚えてか、アーチャーは知らず笑み声を漏らす。

 その声に、膚を探る先を項に変えたランサーが、うん?とくぐもった声を上げた。
 何でも無い、と言葉の代わりに緩く首を振り、彼は懐いてくる男に好きにさせる。
 させていたら首膚を噛まれて、浅い痛みに肩どころか背まで跳ねさせる羽目に陥った。
 流石に眉を寄せて振り返り、加減を間違えてじゃれ付く男を視線で叱る。

 振り返った先で得たランサーの表情は、悪戯が成功した時の子供のようなそれではなく、眉尻を僅かに下げた、弱った笑みだった。


──だってさ、……もし、眼が見えなくなっちまったら、お前をもう、これ以上見られねぇだろ。

──だから俺は、見て、聞いて、触れて、嗅いで、噛んで、
──……俺が捉えられる感覚の全部に、お前を刻んでおきてぇの。

──…いいだろ、それぐらい。


 ランサーが甘える声はあまりに唐突で、珍しく弱々しかったから、アーチャーは背を抱かれたまま溜息をついて、それから振り返った顔も前に戻し、頷く事にした。

 嬉しそうに蕩けた笑顔を正視したら、きっと鼻の奥が痛む、そんな予感がしたせいで。


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